冥契のルペルカリア
基本情報
ブランド | ウグイスカグラ |
---|---|
発売日 | 2021-02-26 |
公式サイト URL | http://kagura.rdy.jp/lupercalia/ |
ブランドサイト URL | http://kagura.rdy.jp |
管理人お気に入り度 | A(大好き!) |
管理人おすすめ度 | B+(興味があればぜひとも。) |
管理人プレイ時間 | 21時間 |
こんな方におすすめ
- 悲劇に心を揺さぶられたい人
- 演劇や文学に興味がある人
- 群像劇好き
こんな方は要注意
- 絵の安定性が気になる人
- 個別ルートを大事にしたい人
感想
疲れるぐらいに感情を揺さぶられた。意味もなく喩えるなら、悲しいことがあった日の夜、部屋にこもって大声で泣いて、泣き疲れて、気分は相変わらず暗澹としているもののどこか嫌いじゃない疲労感の中で眠るような、そういう後味の作品だった。序盤を除いてほとんど全編を通して紡がれる物悲しさはさすがウグイスカグラといったところ。一方で、大量の誤字脱字などの悪い意味での「らしさ」はちゃんと改善されていた。演劇にも文学にもあまり興味はなかったが、劇中劇のストーリーが普通に本編張れるくらい興味深いのもすごい。個人的な好みを言えば、トラウマなどの悲しい過去の描写と、描写が少なかったとあるヒロインの描写をもっとねっとりじっくりやってくれたらなと思う。
本作品は誰かが誰かを愛する気持ち、絶望からの再起といった綺麗な部分もありながら、「いい感じに気持ち悪い」要素がよく効いた作品だった。
まずは独特な台詞の間。演劇をテーマにしているだけあって、明らかに演劇をしている部分以外でも台詞の間が独特だ。普段なら意味の区切りや句読点をもとに息継ぎをするところだが、本作では台詞の中で特に感情のこもった部分などで溜めに溜める。それだけでも不安を煽られる。
次に主人公の環のモノローグ。最初の印象では辛い過去を抱えた無難な主人公に見えるが、体験版終盤あたりから狂気の片鱗が見える。とあるルートではどうみてもコンプレックスの裏返しな痛々しい発言を連発しており、画面の向こうの我々が感情を委ねるにはどうにも気持ち悪い。特典小説でもそういう発言がある。しかし、自分にもそういう、コンプレックスゆえに粋がってしまいたくなるような感情を覚えたことがないとは言えない。この気持ち悪いけど分かってしまう感じが共感性羞恥のような、マゾヒスティックな面白さを醸し出している。全く分からない人にとってはただただ気持ち悪いだけなのかもしれないが。
ただ、最初にも書いた通り、悲しい過去ととあるヒロインについてはもっとねっとりじっくり書いてほしかった。前前作「水葬銀貨のイストリア」はしつこいほど回想での心理描写があったので、イストリアと今作の間ぐらいがちょうどいいのかなあ。
また、失礼を承知で言うと、桐葉先生の原画が過去作と比べて若干歪んで見える……気がする。多分、このゲームの公式サイトを見たときに少なくない人が気にする点だろう。しかしゲームのシナリオの中でこの絵をみていると、登場人物の執念や負の感情の表現といい感じにマッチしていた。むしろこの絵だから良いと思うようになった。もしかしたら意図して若干歪ませているのかもしれないし、そうでもないのかもしれないが、シナリオを楽しむことを阻害する要素にはならなかった、とだけ述べておく。
以下はネタバレありの登場人物別感想。文字色と背景色を同一にしてあるので反転して読んでください。
めぐり: 実質的メインヒロイン。この作品で1番救われた子なんじゃないかな。仲間から救われたとしても尚身に余る過酷な現実を背負ってしまっているけど、まだ辛いけど大丈夫って言えるようになっててよかった。特典小説では彼女も演劇から手をひいて納得したけどちょっと驚いた。
理世: 誰かに手を差し伸べることに自分の救いを求めている優しくて悲しい子。好きだけど嫌い、みたいな相反する感情も彼女のルートのテーマだったのかな。ルートの最後は環くんのために、我々プレイヤーの干渉すらなしに幻惑を振り切って見せてとても綺麗で切なかった。最後の最後、奈々菜を火事から助けたときのほっとしたような泣き顔はこっちまでほっとして泣いた。――気高い君の魂に、心からの感謝を。
奈々菜: 幾重にも呪い (比喩) をかけられたかわいそうでかわいい女の子。自分より不幸な人間の物語を味わって「自分はまだ不幸じゃない」と思いたがるあたりに玖々里の系譜を感じた (そういえば髪の色同じだ)。最後は生きたいと思えるようになって、お母さんも怨恨の中に埋まっていた愛情に気づくことができて本当に良かった。
氷狐 (京子): ウグイスカグラ特有の拗らせ妹、今回も来たな。お兄ちゃんの恋人になるのが2番目の願い、お兄ちゃんに幸せになってほしいというのが1番の願い。今思うと途中で答えが出てたんだけど (彼女の愛情を移し与えられた朧が僕はただ君に幸せになってほしいだけと言っていたので)、私も最後まで本心の分かりづらい彼女に翻弄されっぱなしだったなー。
双葉: 人としてカッコいいよ双葉。捻くれぼっちと見せかけて根は誰よりも真っ直ぐだった。叶わない恋に身を焦がしながら、それが都合よく叶う世界すら望まないのにはもはや驚いたまである。それでもやはり表面が捻くれていることには変わりないけど、そこも好き。フィリアでの演技 (演技とは言ってない) も、それに至るまでの流れも良かった。
悠苑 & 来々: 思わず一緒にしちゃった。いやもうほんとお前らはよくっつけ。共にめぐりを案じてるところとかもう夫婦だよ。ありえん牛歩で距離を縮める2人は鬱屈とした物語の清涼剤でした。
ハナ: 最初は「これは幼い見た目で年上なやつだ!」としばらく思っていたけど、環くんたちがあまりかしこまってないので「あれ、同い年?」とか思ったらやっぱり大人なやつだった。見た目や口調こそ子供っぽいところもあるけど、みんなのことをよく見てくれていて、大人のお姉さん感が隠し切れてない。座長との関係も地味に好き。溺れる演技のために溺れてみたエピソードとかお前かーいってなった。
朧: 元々自身が腐女子ゆえ「私の考えすぎだろう」と思ってたらそうじゃなかった。公式サイトの STORY に乗っていた「――気高い君の魂に、心からの感謝を」も「I love you」も朧くんの台詞だったとは。現実世界では火事よりも前に、駅で轢死したということで良いのかな。ところで鏑木真さんの声がめちゃくちゃ好きなのでこれからもこういう役をやってほしい。
投稿日: 2021-03-07