徒花異譚 (全年齢)
基本情報
ブランド | ANIPLEX.EXE |
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発売日 | 2020-06-19 |
公式サイト URL | https://adabanaitan.com/ |
ブランドサイト URL | https://aniplex-exe.com/ |
管理人お気に入り度 | B+(好き。) |
管理人おすすめ度 | A+(ぜひともやってほしい。) |
管理人プレイ時間 | 8時間 |
こんな方におすすめ
- お伽話を新たな視点から見てみたい人
- 物語と一緒に個性的で美麗なグラフィックを楽しみたい人
- 切なくも温かい気持ちになりたい人
こんな方は要注意
- 地の文をあまり長々と読みたくない人
感想
ATRI と同日に、ATRI と同じ ANIPLEX.EXE から発売された作品。どちらかといえば本作のほうが人を選ぶような設定やビジュアルをしている。しかし、こちらの方がより「ノベルゲームだから、おもしろい。」を体現していると思う。私にとっては、やっぱり海原先生のテキストが好きだなあと思わされた作品。この手のゲームにしてはやや装飾的だけど読み易いし、抽象的ながらしっくりくる喩えが心の中に素直に入ってくる。
その1つとして、物語の序盤で、今までのことを思い出すことのできない白姫が呟く一言を引用したい。 「なにかを思い出そうとしても、まっしろな霞のむこうから、かならず、切れた糸の端がかえってくるような……」 思い出せないことを「霞がかかっている」と表現することはよくあるし、糸は記憶に限らず喩え話でよく選ばれる言葉だ。 しかしこの2つの喩えの組み合わせと白姫の状況がマッチして、本当に何一つ思い出せないという状況の異常さや、なんとか記憶を手繰り寄せようと頭を働かせても徒労に終わってしまう白姫のもどかしさが、直接的表現と同レベルかそれ以上に頭に入ってくる。 時折この手のゲームではあまり見かけないような語彙も見かけるが、調べてみるとその場に1番しっくりくる表現のような気がしてくるし、知的好奇心も掻き立てられる。文章全体としては難解ではないし、そもそもの文体が読み易いのでたまに難しい語彙が出てきてもストレスにはならない。
ごく個人的な趣味になるが、海原先生の書く少年の容姿の描写も好きだ。 大人っぽく振る舞う少年がふとしたときに見せる年相応の感情、大人っぽく振る舞っている時ですら隠し切れない幼さのかけら、いいよね。
メインは「物語のためのもの物語」ではあるが、死生観や切ない身分差恋愛もこの物語には欠かせない。 第一印象では人を選びそうな作品ではあるが、これらの題材はいずれも老若男女関係なく受け入れ易い題材であると思う。 クセのない、しかしキャラクターの立ったヒロインである白姫の視点で進む場面が大半であることもあり、乙女ゲーマーにも勧めてみたい。
ここまでテキストやシナリオにばかり触れてきたが、グラフィック面も隙がない。 特に、作中に何度かある白姫の衣が白以外の色に染まる (ネタバレ気味のため白文字) 場面は、その場面を構成する感情にあった色がこれでもかと表現されている。仮にテキストがなくても一枚絵単体で場面の感情を感じとることができそうだ。
あえて作品の弱点を挙げるとすると、快適にプレイするためのシステム面だろうか。ゲームシステムはシルキーズプラスのものがベースであるためあまり使いやすくはない。ただし、システムでのきめ細やかなサポートが必要なジャンル (抜きメイン作品など) ではないので、多少のストレスを感じることはあれども大きな問題ではないだろう。
こういう雰囲気の全年齢作品がバンバン出てくるような世の中になったら、私はエロゲをやめてしまうんだろうなとさえ思う。 そういう世の中が来る可能性は低いし、杞憂だろうけど。
投稿日: 2021-05-23